太田歯科医院ブログ

BLOG

エナメル質形成不全の原因

2025.06.23

【MIH・エナメル質形成不全の原因と対策】フッ素との関連性を小児歯科専門医が徹底解説

こんにちは。岡谷市の太田歯科医院、小児歯科専門医の**太田大聖(おおた たいせい)**です。

前回のブログでは、子どもの歯に起こる**「エナメル質形成不全」についてお話ししました。
今回は、その原因や、近年注目されている「MIH(第一大臼歯・前歯のエナメル質形成不全)」の最新知見、そして
フッ素との関係性**について詳しくご紹介いたします。


エナメル質形成不全とは?|子どもの歯に起こる「生まれつきの弱さ」

「エナメル質形成不全」は、歯の表面を覆うエナメル質がうまく作られなかった状態を指します。エナメル質は人体で最も硬い組織ですが、それが十分に育たず、弱いまま歯として生えてくることがあります。

エナメル質が正常に形成されないと、以下のような症状が現れます:

・ 歯の変色(白濁、黄、茶色、褐色など)

・ むし歯になりやすい

・ 冷たい物や熱い物で歯がしみる

・ 歯がもろく欠けやすい

・ 磨耗・破折が起きやすい

このように、見た目の問題だけでなく、機能的なリスクも高く、本人にとっては日常生活の中で支障が出ることもあります。


MIH(Molar Incisor Hypomineralization)とは?

エナメル質形成不全の中でも、特に第一大臼歯(6歳臼歯)と前歯に限定して起こる疾患を「MIH」と呼びます。

・ 発症頻度は日本国内で**約11.9%**と高く、決して珍しい病気ではありません。

・ MIHは左右非対称に発症し、軽度の変色から重度の崩壊まで症状はさまざまです。

・ 痛みを伴うことも多く、冷たい水やアイスがしみるため、子どもが自ら症状を訴えず、見逃されやすいのも特徴です。

特に小学校低学年で診断されることが多く、学校歯科健診で「むし歯」と誤診されるケースも少なくありません。


MIHの原因とは?|科学的にわかってきた要因

MIHの原因は完全には解明されていませんが、以下のような周産期(妊娠・出産・乳幼児期)の影響が関連しているとされています。

主なリスク要因(近年の研究より):

・ 帝王切開による出産

・ 妊娠中の母体の疾患(感染症など)や服薬

・ 妊娠後期の超音波検査(3回以上)

・ 出産時の合併症(低酸素・難産など)

・ 低出生体重児

・ 母乳育児が6か月未満

・ 抗菌薬の投与(1歳〜3歳)

・ 4人目以降の出生順位

これらの条件に複数該当する場合、MIHのリスクが高まるとされています。


フッ素の過剰使用とMIHの関連性|千葉県での大規模調査から見えた事実

2021年、千葉県の小学校に通う児童3,348名を対象にした大規模調査では、「家庭でのフッ素の使い方」とMIH発症との相関が指摘されました(桜井・新谷ら¹)。

特に関連が強かったのは:

  • フッ化物ジェルの使用

  • フッ素配合歯磨剤(高濃度)

  • フッ化物スプレー・噴射剤の併用使用

これらを複数併用していた場合、MIH発症率が有意に高かったのです。


日本と海外の違い:フッ素使用のガイドライン

日本ではフッ素の利用に関する正しい知識やガイドラインが一般家庭にあまり浸透していないのが現状です。

ヨーロッパのガイドライン(例):

・ 2歳未満にはフッ素の使用は推奨されない

・ 歯磨剤の使用量は年齢別に細かく規定

・ 飲み込むリスクを避けるための工夫(味の調整・使用量の明記)

日本の場合:

・ 市販のフッ素製品に使用量の表示が少ない

・ 歯科医院でも「とにかくフッ素は良い」という指導が先行

・ 3歳未満の乳幼児の約半数が歯磨き中に歯磨剤を飲み込んでいるという調査も

特に、歯冠(歯の頭)が形成される3〜4歳前後に過剰なフッ素摂取があると、MIHを発症するリスクが高まる可能性があります。


フッ素のリスクと正しい使い方|小児歯科の立場から

フッ素は確かに「むし歯予防」に効果がある成分です。
しかし、使い方を誤れば、永久歯に深刻な影響を与える可能性もあることを、保護者の方には知っておいていただきたいのです。

当院では、次のような方針をとっています:

・ フッ素の使用は年齢・歯の発育段階・生活習慣に応じて判断

・ 不要なフッ素使用は控える(特に乳幼児期)

・ むし歯予防はまず「ブラッシングと食生活管理」が第一


MIHの管理方法と保護者が気をつけるべきこと

MIHは、**ただの変色歯ではなく、将来的なトラブルの原因になりうる“脆い歯”**です。適切なケアと長期的な観察が必要です。

MIHを持つお子様の管理ポイント:

1、管理は長期にわたる

2、むし歯の進行が早い

3、歯の欠け・破折がいつ起きてもおかしくない

4、定期検診は必ず受ける

5、家庭でのブラッシングが重要

6、成長期のかみ合わせやスペース確保も重要

7、MIHの重症度によっては歯を被せる処置も検討


フッ素を避けたらむし歯になる?本当の予防とは

「フッ素を使わないとむし歯になるのでは?」と不安になる方も多いと思います。
しかし、むし歯は「フッ素の有無」ではなく、「食生活とブラッシング習慣」で予防できるのです。

・ 甘い物をダラダラ食べない

・ 寝る前には必ず仕上げ磨きをする

・ 年齢に応じた歯磨き指導を受ける

こういった基本を徹底することが、最も確実なむし歯予防です。


まとめ|MIHを防ぐには「正しい知識と予防」がカギ

エナメル質形成不全・MIHは、外からは見逃されやすく、誤診されることも多い歯の病気です。保護者の方には、フッ素のメリット・デメリットを正しく理解し、必要なケアを行っていただきたいと思います。

当院では、小児歯科専門医として、発育期の歯の異常やトラブルにも的確に対応しております。気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。


日本小児歯科学会専門医 / 日本障害者歯科学会認定医 
歯科医師 太田大聖(岡谷市・太田歯科医院)


🔎 このブログはこんな方におすすめ

・ 「子どもの歯が茶色い・黄色い」と気になる方

・ MIH(エナメル質形成不全)を指摘されたことがある方

・ フッ素の使用に不安を感じている方

・ 小児歯科の専門的な対応を求めている方

・ むし歯ゼロを目指したい保護者の方


📚 参考文献

1)桜井敦朗・新谷誠康:エナメル質形成不全(MIH)―わが国におけるMIH発症に関する大規模調査,日本ヘルスケア歯科学会誌,第14巻 第1号
2)『子供のう蝕治療とリスクマネジメント』

人気のある記事

アクセス ACCESS

当院はJR中央本線「岡谷駅」から徒歩約12分、中央道岡谷JCTから車で約5分の歯医者です。