こんにちは。岡谷市の太田歯科医院、歯科医師の太田大聖です。
今回もPERF-JAPAN認証専門医(根管治療)の立場からお話しさせていただきます。
前回の記事では、
保険の根管治療における制約と再発リスクについて詳しくお伝えしました。
日本の根管治療成功率は約50〜60%と言われ、
再治療(やり直し)になる患者さんが非常に多いという現実があります。
その背景には、
時間・設備・材料の制約によって治療精度を上げにくい保険制度の構造
が存在します。
では、
自費の根管治療では何が違うのでしょうか?
なぜ成功率が**80〜95%**と大きく向上するのでしょうか?
今回は、
その理由を具体的に解説していきます。
■ 自費の根管治療とは?
自費の根管治療とは、
歯をできるだけ長く残すために、治療の精度を最大限に高めることを目的とした治療です。
保険診療の範囲に縛られず、
・ 十分な治療時間を確保
・ 必要な設備や材料を制限なく使用
・ 精密診断と高精度の処置
が可能になります。
根管治療は
見えない場所を扱う精密治療
であり、
視認性・診断精度・無菌環境・器具性能が結果を大きく左右します。
そのすべてを高水準で行えるのが 自費治療 です。
■ 自費治療で可能になる具体的な内容
① マイクロスコープ(顕微鏡)による拡大視野で見える治療
根管は非常に複雑で細く、枝分かれも多く存在し、
肉眼やルーペでは見えない部分がほとんどです。
マイクロスコープは最大20倍の拡大視野で治療を行うことが可能です。
マイクロで見えるメリット
・ 根管の見落としを防ぐ(MB2などの追加根管)
・ 感染源を確実に除去できる
・ 無駄に削らないため歯を残せる量が増える
特に上顎6番に70%以上の確率で存在するとされる MB2は、
肉眼では見つけられないことが多く、
見落とすと再発の大きな原因になります。
「見えないものは治せない」
根管治療における鉄則です。
② CT撮影による3D診断
保険診療では主に2次元のデンタルX線で診断しますが、
根管は立体構造であり、2Dでは正確な情報が得られません。
CTでは根尖の状態、根管の形態、破折の有無などを
立体的に精密に把握できます。
| 2D(デンタル) | 3D(CT) |
|---|---|
| 平面的 | 立体的に評価 |
| 曲がりや分岐がわからない | 方向や湾曲を正確に把握 |
| 病巣の広がりが不明確 | サイズ・形状が明確 |
CTで事前に把握することで、
最短距離で最善の治療計画が立てられます。
③ ラバーダム防湿で無菌環境を確保
根管治療の最大の敵は 細菌です。
治療中に唾液が根管に入るだけで、
再発率は大きく上昇します。
ラバーダムは、治療する歯だけを露出させ、
細菌の侵入を完全に防止するシステムです。
海外では標準ですが、
日本では保険算定できないため、普及率は非常に低いです。
自費治療では必須レベルで行います。
④ Ni-Tiファイルで安全・効率的な根管形成
Ni-Tiファイル(ニッケルチタン)は柔軟性に優れ、
複雑に曲がった根管にも追従して清掃できます。
保険との違い
・ 保険はステンレスファイル中心 → 硬くて折れやすい
・ 自費はNi-Tiで折れにくく形成精度が高い
結果として
治療精度が上がり、破折リスクも減少します。
⑤ MTAセメントによる強固な封鎖
根管治療の最終目的は 隙間を作らず封鎖することです。
わずかな隙間からでも細菌が侵入すれば再発します。
MTAセメントは高い封鎖性と生体親和性を持ち、
海外では根管治療のスタンダードとなっています。
■ 自費治療と保険治療の比較
| 項目 | 保険 | 自費 |
|---|---|---|
| 時間 | 1回15〜20分 | 1回60〜120分 |
| 回数 | 多くなりがち | 少回数で集中 |
| 視認性 | 肉眼 | マイクロスコープ |
| 診断 | 2Dレントゲン | CTで3D診断 |
| 封鎖 | 標準材料 | MTA |
| 再発リスク | 高い | 低い |
| 成功率 | 約50〜60% | 約80〜95% |
成功率の差 = 生涯で歯を残せる確率の差
■ 自費治療はどんな人に向いている?
・ 奥歯(特に第一大臼歯)を絶対に残したい
・ 他院で「再治療が必要」と言われた
・ インプラントにしたくない
・ 通院回数を減らしたい
・ 確実性を追求した治療がしたい
長期視点で考えると
費用以上に価値のある投資だと思います。
■ まとめ
根管治療は、歯を残すための最後の砦です。
どれだけ精密に治療できるかで、予後は大きく変わります。
自費治療は、
歯の寿命を最大限延ばすために必要な環境を整えられる選択肢です。
治療方法を知り、理解し、納得して選択することが
後悔しないために最も大切だと考えています。
✍️筆者プロフィール
太田 大聖(おおた たいせい)
PERF-JAPAN 認証専門医(根管治療)
小児歯科専門医
障害者歯科 認定医
長野県岡谷市 医療法人至善会 太田歯科医院
**根管治療(歯の神経の治療)**と小児歯科・障害者歯科をなどに力を入れ、
**「抜かずに残す治療」**に力を入れています。


